デジタル版「実験論語処世談」(69) / 渋沢栄一

5. 古今を折衷し長短を取捨す

ここんをせっちゅうしちょうたんをしゅしゃす

(69)-5

顔淵問為邦。子曰。行夏之時。乗殷之輅。服周之冕。楽則韶舞。放鄭声。遠佞人。鄭声淫。佞人殆。【衛霊公第十五】
(顔淵、邦を為《おさ》めんことを問ふ。子曰く、夏の時を行ひ、殷の輅に乗じ、周の冕を服し、楽は則ち韶舞し、鄭声を放ち、佞人を遠ざけよ。鄭声は淫、佞人は殆し。)
 本章は、子貢に邦を治むる方法を説いたのである。
 顔淵が邦を治むる方法はどうかと問うた。孔子は民に便利である夏《か》の暦を用ゐ、質素堅実な殷の大車を用ひ、儀制の完備した周の冕を服用するがよい。又音楽は舜の韶舞を用ゐるがよく、鄭の国の音楽を禁じ、佞人を遠ざけるがよい。鄭の音楽は淫靡であり、佞人は事を誤るものであると説いた。
 孔子は一代の制度のみを採らず、古今を折衷し長短を取捨し、時に応ずる所の最良の方法を示したのである。若し孔子をして今日あらしめば、又その方法を異にしたものと言つてよい。

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デジタル版「実験論語処世談」(69) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.623-626
底本の記事タイトル:三七四 竜門雑誌 第四三四号 大正一三年一一月 : 青淵先生説話集 : 実験論語処世談(第六十七《(九)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第434号(竜門社, 1924.11)
初出誌:『実業之世界』第21巻第10号(実業之世界社, 1924.10)