デジタル版「実験論語処世談」 理財と道徳(54) / 渋沢栄一

4. [中途で挫折するは何事も出来ぬ人]

ちゅうとでざせつするはなにごともできぬひと

(54)-4

子曰。苗而不秀者有矣夫。秀而不実者有矣夫。【子罕第九】
(子曰く。苗にして秀でざる者有りや。秀でて実らざる者有りや。)
 之は苗に譬を引いて、学業を成就する者少きを歎じ、途中挫折する事なき様にしなければならぬ、と訓へられたのである。秀は華を吐く事で、即ち「稲の苗が成長して、花の咲かぬものがあらうか、花が咲いて穀を成さぬものがあらうか」と言はれたのであるが、此の比喩は「植物でも苗が成長して花咲き実を結ぶと同じく、学に志す人間も、倦まず惰らず勉強して止まざれば、遂に聖賢の材となり、君相を輔けて仁政を施し、民を救ふに至る可きに、中途にして学を廃する者の多いのは、誠に遺憾千万である」と且つ慨歎し、且つ奨励せられたのである。
 此の章句は直ちに取つて以て現代に当て嵌める事が出来ると思ふ。何事でも、倦まず惰らず勉めて止まずんば、必ず事を成就するに至るものであるが、多くの人は途中の障碍に挫折して了ふ。こんな決心の鈍い事では何事も成し遂げられるものではない。心すべきである。

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デジタル版「実験論語処世談」 理財と道徳(54) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.453-455
底本の記事タイトル:三二五 竜門雑誌 第四〇四号 大正一一年一月 : 実験論語処世談 理財と道徳(第五十二《(四)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第404号(竜門社, 1922.01)
初出誌:『実業之世界』第18巻第5号(実業之世界社, 1921.05)