デジタル版「実験論語処世談」(9) / 渋沢栄一

1. 御大典参列よりも急務

ごたいてんさんれつよりもきゅうむ

(9)-1

 今上陛下御即位の御大典も来る秋冬の候に於て目出度御挙行あらせらるるに就ては、実に千載一遇の御盛儀のこと故是非之に参列の光栄を荷ひたいのは私として山々の次第であるが、私も既に本年七十六歳この上なほ永い余生のある身とも思へぬ。かく思ふにつけてもこの残り少い余生を少しでも国家の御利益になるやうに用ゐて一生を終りたいといふのが、私の微衷である。今回御大典を目前に控へながら、看す看す之に参列するの光栄を荷はずに十月下旬横浜出帆の汽船によつて渡米の事に決心したのも、全く奉公の微衷の致す処で、仮令この老軀でも多少国家の御利益になるものとすれば、一日の大饗に参列して独り自ら之を光栄として悦ぶよりは、国家百年の福祉の為に微力を献ずるのが、孔夫子の論語に於て説き遺された忠孝の道を全うする所以であらうかと存ずるのである。

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キーワード
御大典, 参列, 急務
デジタル版「実験論語処世談」(9) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.10-13
底本の記事タイトル:二〇四 竜門雑誌 第三三三号 大正五年二月 : 実験論語処世談(九) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第333号(竜門社, 1916.02)
初出誌:『実業之世界』第12巻第19号(実業之世界社, 1915.10.01)