11. 死を決して大塩平八郎を諫む
しをけっしておおしおへいはちろうをいさむ
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少年は之を見るや驚いてウロウロして居つたので、矩之丞は狼狽為す所を知らざる少年を叱して邸より抜け出でしむると共に、大塩に対しては「斯くあるべしと覚悟の上に諫止せし事故、決して逃げも隠れもせぬから」と立派に言ひ放ち、猶ほ大塩の不心得を諫めて従容その刃に罹つて殺されたとのことである。
この宇津木矩之丞の如きは、不義を見て為さざる勇のあつた人といふべきである。この点に於て、青年諸君は大に矩之丞の意気を学び、不義と思ふ事には、何時如何なる人より加担を迫られても決して其仲間に加はらず、為に生を捨つるも厭はざるまでの覚悟を平素より養つて置くやうにして戴きたいものである。この宇津木矩之丞なる彦根藩士一家の方で宇津木騮太郎といふ人は目下大阪の北野中学校に英語の教師をして居られるとか聞き及んで居る。
- デジタル版「実験論語処世談」(8) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.2-7
底本の記事タイトル:二〇二 竜門雑誌 第三三二号 大正五年一月 : 実験論語処世談(八) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第332号(竜門社, 1916.01)
初出誌:『実業之世界』第12巻第18号(実業之世界社, 1915.09.15)