5. 武装平和は野蛮的
ぶそうへいわはやばんてき
(23)-5
孔夫子や孟子が切りに説かれた王道、即ち王者の道といふものは、今日で申す国際道徳の事である。今日よりも昔の時代には却つて支那なぞにさへ王道即ち国際道徳が行はれて居つたもので、一国が武力によつて他の国を圧迫し、之を併呑するやうな事は滅多に無かつたものである。斉にしても魯にしても決して他を圧迫したものでは無い。
一国が生産殖利の道を講じ、その結果、その国が繁栄して旭日昇天の勢を示すものあるに対し、他の国が生産殖利の道を講ぜぬ為に衰亡して倒れてしまつたのを収めるのは、決して悪い事で無いが、生産殖利によつて国を繁栄させ、その富を以て武力を拡張し、之によつて他国を圧迫し之を併呑してしまふのは、国際道徳を無視した野蛮の行為である。
- デジタル版「実験論語処世談」(23) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.150-157
底本の記事タイトル:二三四 竜門雑誌 第三四七号 大正六年四月 : 実験論語処世談(二三) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第347号(竜門社, 1917.04)
初出誌:『実業之世界』第14巻第4,5号(実業之世界社, 1917.02.15,03.01)