6. 団十郎を作れる家系
だんじゅうろうをつくれるかけい
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二代目団十郎は俳号を栢莚と称したが、これが又却〻俳句に堪能で俳人の宝井其角、画家の英一蝶、それから俳号を子葉と称した赤穂四十七士の一人なる大高源吾なぞとも初代以来別懇の間柄であつたらしく、書籍骨董等を愛し、「老の楽」「栢莚舎事録」なぞと題する日記様の著書もある。彼の有名な幕府の老女江島と山村座の俳優生島新五郎との騒ぎは、恰度二代目団十郎の時代に起つた事件だが、二代目は江島と何の関係も無かつたので、単に訊問を受けたのみで無罪放免になつたのである。然しこの事件に関係のあつたものは、生島新五郎以下夫々処刑を受け、山村座は断絶になつてしまつたから、九代目団十郎は家代々の口碑により斯んな事を耳に挟んで居つたので、如何に不品行が芸道に禍ひする処多きかを知り、旁〻一層品行を慎み、良家の娘や何かを嗾かす如き野卑下劣な事をしなかつたものと思はれる。
- デジタル版「実験論語処世談」(34) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.239-245
底本の記事タイトル:二五六 竜門雑誌 第三五九号 大正七年四月 : 実験論語処世談(卅四) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第359号(竜門社, 1918.04)
初出誌:『実業之世界』第15巻第2,3号(実業之世界社, 1918.01.15,02.01)