デジタル版「実験論語処世談」(52) / 渋沢栄一

7. 平素の修養の力に俟つ

へいそのしゅうようのちからにまつ

(52)-7

 此の章の始めに、文王既に歿すとあるのは、周の時代であつたから文王を引証して来たのであつて、難に遭つても非常な自尊を以て泰然として死生の間に超越して居られたのは、全く偉大なる人格の賜物である。恭謙遜抑の徳のある人にして、斯かる時に際し真の気魄が天下に押拡められるのである。畢竟之れは孔子の偉大なる処を説いたのであつて、死生存亡の間に在りて毫も心を動かされざるのみならず、自らの任じ方が高かつた事を後世に伝へようとしたものである。
 斯くの如きは全く平素の修養の力であつて、死生の間に処して心の動揺を感ぜざるの境地に至つて始めて其の全きを見る。而して天命に安んじて懼れざるの徳は、古来、我国にも其の例に乏しくない。

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キーワード
平素, 修養,
デジタル版「実験論語処世談」(52) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.405-409
底本の記事タイトル:三〇九 竜門雑誌 第三八九号 大正九年一〇月 : 実験論語処世談(五十一《(二)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第389号(竜門社, 1920.10)
初出誌:『実業之世界』第17巻第10号(実業之世界社, 1920.10)