デジタル版「実験論語処世談」(64) / 渋沢栄一

6. 民衆に先だつて労せよ

みんしゅうにさきだってろうせよ

(64)-6

子路問政。子曰。先之労之、請益。曰。無倦。【子路第十三】
(子路政を問ふ。子曰く。之れを先んじ之れに労す。益を請ふ。曰く。倦むなかれ。)
 本章は、子路が孔子に政治をなすべき道を問うたのに答へられたので、上にあるものが民衆に先だつて自らを正しくすれば、民衆も之れに感化される。又身を以て民衆の為めに勤労すれば、民衆も亦上の為めに勤労することになるから政治も善くなると言はれた。けれどもこの簡単な答へ丈けでも能く納得が出来ないので、更にその上に為すべきことは何かと問うた。然るに孔子は唯倦む勿れと教へられた。言はば政治をなすの道は先と労とをなすより外になすべきものなく、倦むことがないに越したことはないと言はれたのである。
 孔子は政治の要諦として此の三つを挙げた。けれども非難する者は或はよい制度を施せば、政治の成績を挙げることが出来るではないかと云ふかも知れない。併し、如何に制度ばかり立派であつても、此精神がなかつたならば、立派な制度も画餅に帰する訳である。即ち陛下に於かせられては、君たちの本分をお尽しになる為めに民衆に先んじ民衆の為めに勤労すれば、民衆も亦之れに感化される。又内閣諸公にしても之れに先んじて労することをすれば、一般民衆は服従して善い政治が出来る。

全文ページで読む

デジタル版「実験論語処世談」(64) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.534-540
底本の記事タイトル:三五二 竜門雑誌 第四二一号 大正一二年六月 : 実験論語処世談(第六十二《(四)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第421号(竜門社, 1923.06)
初出誌:『実業之世界』第20巻第2,3号(実業之世界社, 1923.02,03)