6. 施さざるの慈善あり
ほどこさざるのじぜんあり
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孔夫子は此の意味に於て「或る者」が発した皮肉の質問に答へられ必ずしも官に就き位に上り、政治向の事に干与するばかりが政治を取ると申すのでは無い、政は敢て仕官をせずとも日々取つてゆけるものである、兄弟に友に、四海に仁義を施くのが即ち王者の政である。故に強ひて世間に所謂政治家となる必要なぞ更々無い、仁義礼智信の道を歩むのが是政治では無いか、との反問を発せられて、「或る者」の冷評的質問を退治せられたのである。是処に常人と全く其選を異にした孔夫子の偉大なる御人格がある。
- デジタル版「実験論語処世談」(7) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.685-690
底本の記事タイトル:二〇〇 竜門雑誌 第三三一号 大正四年一二月 : 実験論語処世談(七) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第331号(竜門社, 1915.12)
初出誌:『実業之世界』第12巻第17号(実業之世界社, 1915.09.01)