11. 私と養育院の事業
わたしとよういくいんのじぎょう
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私も明治六年以来全く官途に念を断つて、一意民業の発達に及ばずながら力を致して来たのであるが、それでも全く政治に関係が無いものとは思はぬ。仮令孔夫子の如く広く且つ永くは無いにしても、是も亦、政を為さずして為す政のうちであらうかと、僣越ながら存ずるものである。私は、久しい以前より東京養育院の事業に関係し、今日でも不行届勝ながら其の御世話を致して居るが、之なぞも素より私が一身の功名栄誉の為にするのでも何でもない。孔夫子の論語に説かれた「惟れ孝に、兄弟に友に、有政に施す、是れも亦政を為すなり」の遺訓を服膺し、斯る事業に力を尽すのも亦つまりは政を為さゞる政で、少しは国家政治向の御利益にならうと思ふからの事である。
- キーワード
- 渋沢栄一, 養育院, 事業
- 論語章句
- 【為政第二】 或謂孔子曰、子奚不為政。子曰、書云、孝乎惟孝、友于兄弟、施於有政。是亦為政。奚其為為政。
- デジタル版「実験論語処世談」(7) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.685-690
底本の記事タイトル:二〇〇 竜門雑誌 第三三一号 大正四年一二月 : 実験論語処世談(七) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第331号(竜門社, 1915.12)
初出誌:『実業之世界』第12巻第17号(実業之世界社, 1915.09.01)