2. 社会事業を楽む癖
しゃかいじぎょうをたのしむくせ
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私は、随分社会事業の為に奔走し、養育院、理化学研究所或は又欧洲交戦国への見舞金など寄附金集めをやつてるが、決してラクなものでは無い。他人が出さうといふ気になつて居らぬ金を出させようとするのだから、中には「又渋沢の寄附金取りか」と、無理から家主に招集されて厭やな義太夫を聴かせられるのと同じぐらゐの事に思ひ、蹙面をせらるる富豪も無いでも無かるべく、斯く取扱はるれば誰とて余り快い心持のもので無いが、私に取つて其んな事が毫も苦痛にならぬのは、斯る事業の為に尽すのを私が楽みにして居るからだ。之を楽みにして懸りでもし無ければ、迚も寄附金取りに駆け廻る事なぞは行れるもので無いのである。他人に頼まれた御義理だとか、世間に好い評判を取りたいからの名誉づくなんかからでは迚も行れるもので無い。
- キーワード
- 社会, 事業, 楽み, 癖
- 論語章句
- 【八佾第三】 子曰、関雎楽而不淫、哀而不傷。
- デジタル版「実験論語処世談」(29) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.194-202
底本の記事タイトル:二四五 竜門雑誌 第三五三号 大正六年一〇月 : 実験論語処世談(二九) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第353号(竜門社, 1917.10)
初出誌:『実業之世界』第14巻第14,15号(実業之世界社, 1917.07.15,08.01)