デジタル版「実験論語処世談」(37) / 渋沢栄一

7. 「春雲楼遺稿」の序文

しゅんうんろういこうのじょぶん

(37)-7

 私は人真似に過ぎぬが、十六七歳の頃より詩を作る稽古を始め、之には多少の興味を持つて居りもしたので、文久二年、恰度私が江戸へ出る前年、閣老安藤対馬守を坂下門外に要撃した攘夷党の一人で後捕はれて節に死した越智通桓といふ人の詩を読み、之を面白く思ひ、又その志に感激もしたから、同氏の遺した詩藻を集めて「春雲楼遺稿」と題する一巻の遺稿を編纂し、親しく序文を書いて之を印刷に附し知人の間に配布したりなんかしたほどだ。今日に成つて読んでみても、越智通桓の小伝を兼ねた其書の序文は相当に旨く書けてると自分ながら思ふが、海保漁村先生が大分添削して下されたものである。当時印刷の部数が甚だ少かつたので爾来手許に一冊も残つて居らなかつたところ、郷里に之を一冊所蔵して居る者があつて、此頃に至り私の手許へ送つてくれたので、或は興味もあらうかと思ひ、左に其の小伝を兼ねた序文を掲出する事に致す。

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春雲楼遺稿, 序文
デジタル版「実験論語処世談」(37) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.270-278
底本の記事タイトル:二六五 竜門雑誌 第三六三号 大正七年八月 : 実験論語処世談(第卅七回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第363号(竜門社, 1918.08)
初出誌:『実業之世界』第15巻第8,9号(実業之世界社, 1918.04.15,05.01)