4. 論語主義は明治六年より
ろんごしゅぎはめいじろくねんより
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論語には実業家の取つて以て金科玉条となすべき教訓が実に沢山にある。仮令へば「里仁」篇の
富与貴。是人之所欲也。不以其道。得之不処也。貧与賤。是人之所悪也。不以其道。得之不去也。(富と貴きは是れ人の欲する所なれども、其道を以てせざれば之を得るも処らず。貧と賤しきとは是れ人の悪む所なれども、其道を以てせざれば之を得るも去らず)
の如き即ち其一例で、実業家の如何にして世に立ち身を処すべきものたるかを、明確に説き教へられたものである。又同じく「里仁」篇の中に
放於利而行。多怨。(利によりて行へば怨み多し)
などの句がある。其他、一々枚挙に遑なきほどで、実業家の日常生活に於て遵守すべき教訓が実に論語には多いのである。
- デジタル版「実験論語処世談」(1) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.638-645
底本の記事タイトル:一八八 竜門雑誌 第三二五号 大正四年六月 : 実験論語処世談(一) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第325号(竜門社, 1915.06)*記事タイトル:実験論語処世訓(一)
初出誌:『実業之世界』第12巻第11号(実業之世界社, 1915.06.01)