デジタル版「実験論語処世談」(1) / 渋沢栄一

12. 「学而」第一の冒頭

がくじだいいちのぼうとう

(1)-12

学而時習之。不亦説乎。有朋自遠方来。不亦楽乎。人不知而不慍不亦君子乎。【学而第一】
(学んで時に之を習ふ、亦悦ばしからずや。友あり遠方より来る、亦楽しからずや。人知らずして怒らず、亦君子ならずや。)
 この章句は論語の冒頭になつてるのであるが、筑前の学者亀井道載先生の著はされた「語由」等に拠つても明かなる如く、処世上頗る大切な教訓である。全体の章が「学而」「有朋」と「人不知而」との三段に分れ、一見何の脈絡も其間に無いかの如くに思はれるが、互に離すべからざる聯絡がある。「学んで時に之を習ふ亦悦ばしからずや」とは、「斯文」たる聖人の道を学び、修め習ふといふ事は、仮令単独でしても悦ばしい愉快な次第であるとの意味である。然るに、その上なほ、遠方より来れる友人と共に、自ら習ひ修めた道を語り明かし、之と共に切磋琢磨して道に進んで行けるやうになつて、仮令二三人でも同志の殖えるといふ事は、更に一層愉快な悦ばしい次第である、と云はねばならぬ。これが「朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」の意味である。

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デジタル版「実験論語処世談」(1) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.638-645
底本の記事タイトル:一八八 竜門雑誌 第三二五号 大正四年六月 : 実験論語処世談(一) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第325号(竜門社, 1915.06)*記事タイトル:実験論語処世訓(一)
初出誌:『実業之世界』第12巻第11号(実業之世界社, 1915.06.01)