11. 円満なる孔夫子
えんまんなるこうふうし
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要するに孔夫子は欠点なく何事にも精通した頗る円満な人物で、常識の非常に発達せられた方である。依て、私は孔夫子に学んで論語にある教訓を遵奉してさへゆけば、世間に出でゝ非難の無い常識の発達した人物になり得られるものと信ずる。又孔夫子の教訓は大なる常識に外ならぬものであるから、誰でも学んで実践躬行し得られるものである。
斯の孔夫子の教は孔子より孟子に伝へられ、其後、韓退之なども之を伝へたやうであるが、一時余り世に行はれず、宋の時代になつてから其の復興を見るに及び、朱子の如き学者が現はれて四書の「朱子集註」の如きものを見るに至つたのである。然し、之より先に「古註」といふものもある。日本には、古註本も朱子集註本も共に渡来したが[、]徳川時代には、朱子集註が最も博く行はれたものである。
- デジタル版「実験論語処世談」(1) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.638-645
底本の記事タイトル:一八八 竜門雑誌 第三二五号 大正四年六月 : 実験論語処世談(一) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第325号(竜門社, 1915.06)*記事タイトル:実験論語処世訓(一)
初出誌:『実業之世界』第12巻第11号(実業之世界社, 1915.06.01)