デジタル版「実験論語処世談」(68) / 渋沢栄一

1. 礼を知らぬ原壌

れいをしらぬげんじょう

(68)-1

原壌夷俟。子曰。幼而不孫弟。長而無述焉。老而不死。是為賊。以杖叩其脛。【憲問第十四】
(原壌、夷して俟つ。子曰く。幼にして孫弟ならず、長じて述ぶるなく、老いて死せざるは、是れを賊となすと。杖を以て其の脛を叩く。)
 本章は、孔子が原壌の人生を害することを責めたのである。
 原壌は孔子の旧友、夷は両足を投げ出して坐つてゐること。孔子の旧友である原壌が、孔子を立つて迎へもせず両足を投げ出して待つて居た。孔子は原壌のまだ礼を重ずることを知らぬを見て、幼時は長者に対して従順でなく、長じても述ぶる程の事功もなく、而も長生きをして居るから、世の良風醇俗や倫常を害すのみである。こんな者を賊と云つてよいと、其の脛を軽く叩いたといふことである。
 茲に言ふ「老而不死」は長生きをしてはいかぬと云ふのではなく、長生きをして居つても、世のためになるやうなことは少しもなく、却て害毒を流すやうなことをすれば世の迷惑になるから、賊のやうなものだ、こんな者であつたら、早く死ねばそれ丈害毒が少くなると云ふ意味である。

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デジタル版「実験論語処世談」(68) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.610-617
底本の記事タイトル:三七一 竜門雑誌 第四三三号 大正一三年一〇月 : 青淵先生説話集 : 実験論語処世談(第六十六《(八)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第433号(竜門社, 1924.10)
初出誌:『実業之世界』第21巻第8,9号(実業之世界社, 1924.08,09)