12. 現内閣諸公に望む
げんないかくしょこうにのぞむ
(68)-12
又この章句は、私は海外へ出る人々に対して数限りなく言つて之れが実行を希つて居る。何処の国に行つても自分が此の心掛けさへ有つて居れば行はれぬことはない、世に用ひられぬことがない。行住坐臥の間にも忠信篤敬が現はれて居れば、己れの為すことが必ず行はれるものである。
これは孔子と子弟との門答であつて、それ程六ケしいものではないが、併し論語を読むものは此処に注意しなければならぬ。人にその事の行はれんことを希ふならば、己先づ言忠信にして行ひ篤敬でなければ何にもならぬ。然るに現在の人は多くは軽薄怠慢であつて、その事に表裏がある。そして行はれぬことを云ふ。成る程言ふことを聞いて居ればその人一人は立派で、他の人は悪く、丁度悪の展覧会のやうであるが、斯く言ふ人も忠信篤敬の人ではないから、その事も亦行はれよう筈がない。
- デジタル版「実験論語処世談」(68) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.610-617
底本の記事タイトル:三七一 竜門雑誌 第四三三号 大正一三年一〇月 : 青淵先生説話集 : 実験論語処世談(第六十六《(八)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第433号(竜門社, 1924.10)
初出誌:『実業之世界』第21巻第8,9号(実業之世界社, 1924.08,09)