1. 客に接する二様の見地
きゃくにせっするにようのけんち
(5)-1
一体人が人と接するに当つて懐く心情には二様ある。その一つは、何でも赤いものを見たら火事と思へ、人を見たら泥坊と思へと謂つたやうな調子で、遇ふほどの人見るほどの人を悉く皆、自分に損を懸けに来た人、自分より何か盗んで行かうとして来た人、自分を欺く為に来た人だと思つて接する心情で、今一つは恰度之と反対に、遇ふほどの人見るほどの人を総て皆誠意あるものとして遇し、自分も亦誠意を披瀝して之に接する心情である。人によつて客に接する法が斯く二つに別れる。
- デジタル版「実験論語処世談」(5) / 渋沢栄一
-
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.670-676
底本の記事タイトル:一九七 竜門雑誌 第三二九号 大正四年一〇月 : 実験論語処世談(五) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第329号(竜門社, 1915.10)
初出誌:『実業之世界』第12巻第15号(実業之世界社, 1915.08.01)