7. 小学教育に出金す
しょうがくきょういくにしゅっきんす
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敢て自分の徳や功労を誇るわけでも何でも無いが、私の生家の者も能く私の意を体し、村内の者に率先して純朴の風を守り、小学教育が良く行はれて居るので八基村は仮令完全無欠の理想郷で無いにしても理想郷に近い村で、忠孝利貞の道が廃れず、村内の者は一般に孝悌を重んじ、長幼相済け、漫りに小さな功を争はず、新しい人が起つて、是まで勢力を得て居つた人を倒さうとする如き小ゼリ合ひなどは致さぬやうに相成り、仁厚の美風が漂つて居るかの如くに思はれる。都会に住み郷里を離れて居る者でも、苟も先輩とか長老とか郷党の者より推される身分になつた者は、郷里のことにも多少意を注ぎ、純朴の風を保存させ、孝悌の美風を永く行はしむるやうに之を誘掖し、殊に小学教育を発達さする事に、尽力なさるが宜しからうと私は思ふのである。何と申しても、片田舎で最も大事なものは小学校である。これが総てに於て一村の土台になるのであるから、小学教育は決して忽に致すべきものでは無い。
- デジタル版「実験論語処世談」(13) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.45-54
底本の記事タイトル:二一〇 竜門雑誌 第三三七号 大正五年六月 : 実験論語処世談(一三) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第337号(竜門社, 1916.06)
初出誌:『実業之世界』第13巻第6,8,9号(実業之世界社, 1916.03.15,04.15,05.01)