5. 郷里を仁風に化せよ
きょうりをじんふうにかせよ
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総じて人は我が身を思へば、直に家を思ひ、家を思へば同時に家のある故郷を思ふに至るもので、之が実に人情の自然である。この故郷を思ひ郷里を思ふの情の軈て発展したものが愛国心となり、更に博く推し拡げられて世界全般の上に及んだものが、人類を思ひ、人類を愛する博愛の精神ともなるのである。されば人は世界人類の為に尽くし国家同胞の為に尽さんとならば、須らく先づ其本より始めて故郷を愛し、各人それぞれ其分に応じて郷里の為に尽くすべきものであらうかと存ずる。私は及ばずながら斯の精神を懐いて私の生れ故郷の八基村の為に尽して居る積である。それに就ては、できる丈け仁厚の風を永く郷里に行はるるやうに致し置きたいものと思つて只管之に心懸けて居る。
- キーワード
- 郷里, 仁
- 論語章句
- 【里仁第四】 子曰、里仁為美。択不処仁、焉得知。
- デジタル版「実験論語処世談」(13) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.45-54
底本の記事タイトル:二一〇 竜門雑誌 第三三七号 大正五年六月 : 実験論語処世談(一三) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第337号(竜門社, 1916.06)
初出誌:『実業之世界』第13巻第6,8,9号(実業之世界社, 1916.03.15,04.15,05.01)