12. 無理を言ひ張る人あり
むりをいいはるひとあり
(32)-12
人にはみな妙な癖のあるもので、他人の失言や無理な行為は之を彼是と非難するが、自分の言動には如何に失言や無理があつても、之を弁護せねばならぬ義務があるかの如く心得て、直に何んの彼んのと付けられもせぬ理窟を無理に付けて、我が非を無理に遂げようとしたがるものだ。如何に三百理窟を捏ねあげて、一時自分の非を糊塗して見たからとて、失言は依然として失言、無理な行為は依然として無理な行為である。そんな馬鹿な役にも立たぬ事に潰す暇があつたら、それよりも失言を早く取消し、無理な行為に対しては改悛の情を示し、以後その過ちを再びせぬやうに心懸けるが何よりである。然らばその人は、自分の失言を弁護したり、無理な行為に理窟をつけて烏を鷺と言ひくるめるよりも遥にその人品を高める事になる。自分で自分の失言非行を無理な理窟で弁護するほど、世の中に見つともないものは無いのである。
- デジタル版「実験論語処世談」(32) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.223-233
底本の記事タイトル:二五二 竜門雑誌 第三五七号 大正七年二月 : 実験論語処世談(第卅二回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第357号(竜門社, 1918.02)
初出誌:『実業之世界』第14巻第20-22号(実業之世界社, 1917.10.15,11.01,11.15)