6. 井上哲次郎博士の孔子観
いのうえてつじろうはかせのこうしかん
(62)-6
是れに反して孔子は、殊更に何々が勝れて居たと思ふ点はないが、仁義を弁へ、礼義を知り、健康を保持し、其他人間としての備ふ可き総ての条件を悉く具備して居り、従つて其の言語行動が人としての最高点に達して居つた。且つ六芸に通じ、行くとして可ならざるはなく一言一行、悉く後世の人の以て模範とすべきものであつた。是れを以て孔子を偉大なる平凡人と称すると言ふ意味の講演であつた。之れは頗る変つた孔子の観察法であつて、余程面白い見方であると思ふ。
- デジタル版「実験論語処世談」(62) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.507-515
底本の記事タイトル:三四六 竜門雑誌 第四一七号 大正一二年二月 : 実験論語処世談(第六十《(六十二)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第417号(竜門社, 1923.02)
初出誌:『実業之世界』第19巻第7-9号(実業之世界社, 1922.07,08,09)