12. 民部公子の為に二万円
みんぶこうしのためににまんえん
(3)-12
その時に私は態〻静岡から東京に出て新政府当局に交渉し、仏蘭西に残して来た諸道具や借家料回収金などは、仮令明治政府になつてから現金にせられたにしろ、道具を買つたり借家料を予納した時の費額は、曩に留学中民部公子に支給せられた金額のうちより私なぞが御倹約を致させ申して支出したのであるから、何れも民部公子の私有財産である。依て仏蘭西より今回回送された現金は当然民部公子に御下げになつて然るべきものであると主張し、その二万円ばかりを受取つて帰るやうにしたこともある。これなぞも、一に旧主家徳川家に尽したいとの精神から出たものである。
- デジタル版「実験論語処世談」(3) / 渋沢栄一
-
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.657-663
底本の記事タイトル:一九三 竜門雑誌 第三二七号 大正四年八月 : 実験論語処世談(三) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第327号(竜門社, 1915.08)
初出誌:『実業之世界』第12巻第13号(実業之世界社, 1915.07.01)