デジタル版「実験論語処世談」(10) / 渋沢栄一

2. 秀吉の一生は勉強のみ

ひでよしのいっしょうはべんきょうのみ

(10)-2

 此く列挙した秀吉の長所のうちでも、長所中の長所とも目すべきものはその勉強である。私は秀吉の此の勉強に、衷心より敬服し、青年子弟諸君にも是非秀吉の此の勉強を学んで貰ひたく思ふものである。事の成るは成るの日に成るに非ずして、その由来する所や必ず遠く、秀吉が稀世の英雄に仕上がつたのは、一に其勉強にある。
 秀吉が木下藤吉郎と称して信長に仕へ草履取りをして居つた頃、冬になれば藤吉郎の持つてた草履は常に之を懐中に入れて暖めて置いたので、何時でも温かつたといふが、こんな細かな事にまで亘る注意は余程の勉強でないと到底行届かぬものである。又、信長が朝早く外出でもしようとする時に、まだ供揃ひの衆が揃ふ時刻で無くつても、藤吉郎ばかりは何時でも信長の声に応じて御供をするのが例であつたと伝へられて居るが、これなぞも、秀吉の非凡なる勉強家たりしを談るものである。

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キーワード
豊臣秀吉, 一生, 勉強
デジタル版「実験論語処世談」(10) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.15-22
底本の記事タイトル:二〇六 竜門雑誌 第三三四号 大正五年三月 : 実験論語処世談(一〇) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第334号(竜門社, 1916.03)
初出誌:『実業之世界』第12巻第20,21,23号(実業之世界社, 1915.10.15,11.01,11.15)