デジタル版「実験論語処世談」(10) / 渋沢栄一

10. 礼は仁義忠信の仕上げ

れいはじんぎちゅうしんのしあげ

(10)-10

 私は美術の方面は至つては不案内であるから、絵の事なぞに就て何事も申上げるわけに参らぬが、孔夫子は美人に関する詩より延いて絵の事に及ばれ、更に進んで道徳上のことを之によつて暗示せられたものである。子夏は孔夫子に斯る意があるを直ちに汲み取つて「然らば道徳上に於ても、礼より先になるものは仁義忠信で、これにより人間の素地を作つた上に礼の絢を施すべきものであるか」と再度の質問を発せられたものと思はれる。
 子夏即ち商の発した再度の質問は、大層孔夫子の御気に適つたものと見え「商よ、爾は予を失望せしめぬ好弟子である。爾の如くに考へてこそ始めて真に詩を解するものと謂へる」と子夏を御賞めになつたのであるが、如何にも其の通りで、礼は仁義忠信で出来あがつた徳性の上にかけられる仕上げである。又、美人の事を謡つた詩でも、人の解し方によつては之を道徳的にも解し、我が修養の一助に供し得るものである。

全文ページで読む

キーワード
, 仁義, , , 忠信, , , 仕上げ
デジタル版「実験論語処世談」(10) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.15-22
底本の記事タイトル:二〇六 竜門雑誌 第三三四号 大正五年三月 : 実験論語処世談(一〇) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第334号(竜門社, 1916.03)
初出誌:『実業之世界』第12巻第20,21,23号(実業之世界社, 1915.10.15,11.01,11.15)