4. 保護が保護にならず
ほごがほごにならず
(11)-4
之に反し、後進をガミガミ責めつけて常に後進の揚足を取つてやらうやらうといふ気の先輩が上にあれば、その下にある後進は寸時も油断がならず、一挙一動にもスキを作らぬやうにと心懸け、あの人に揚足を取られる如き事があつてはならぬからと、自然身持にも注意して不身持な事をせず、怠惰るやうな事も慎み、一体に後進の身が締るやうになるものである。殊に後進の揚足を取るに得意な先輩は、後進の欠点失策を責めつけ、之を罵り嘲けるのみで満足せず、その親の名までも引き出して之を悪しざまに云ひ罵り、「一体貴公の親からして宜しく無い」なぞとの語を能く口にしたがるものである。随つて斯る先輩の下にある後進は、若し一旦失策失敗あれば単に自分が再び世に立てなくなるのみならず、親の名までも辱しめ、一家の恥辱になると思ふから、什麽しても奮発する気になるものである。
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- デジタル版「実験論語処世談」(11) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.22-30
底本の記事タイトル:二〇七 竜門雑誌 第三三五号 大正五年四月 : 実験論語処世談(一一) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第335号(竜門社, 1916.04)
初出誌:『実業之世界』第12巻第24,25号,第13巻第1号(実業之世界社, 1915.12.01,12.15,1916.01.01)