8. 大蔵省総務局の椿事
おおくらしょうそうむきょくのちんじ
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明治四年、私が恰度三十三歳で大蔵省に奉職し、総務局長を勤めて居つた時代の頃であるが、大蔵省の出納制度に一大改革を施し、改正法を布いて西洋式の簿記法を採用し、伝票によつて金銭の出納をすることにした。処が当時の出納局長であつた人が――その姓名は憚りがあるから申上げかねるが――この改正法に反対の意見を持つて居つたのである。伝票制度の実施に当つて偶〻過失のある事を私が発見したので、当事者に対して之を責めて遣ると、元来私が発案実施した改正法に反対の意見を持つて居たその出納局長といふ男が、傲岸な権幕で一日、私の執務して居つた総務局長室に押しかけて来たのである。
- デジタル版「実験論語処世談」(11) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.22-30
底本の記事タイトル:二〇七 竜門雑誌 第三三五号 大正五年四月 : 実験論語処世談(一一) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第335号(竜門社, 1916.04)
初出誌:『実業之世界』第12巻第24,25号,第13巻第1号(実業之世界社, 1915.12.01,12.15,1916.01.01)