1. 人を見るに細心なれよ
ひとをみるにさいしんなれよ
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然し私としては、随分念にも念を入れて、充分其人を観察し得た積でありながら、後日に至り、其人に意外の行動があるのを知つて自らの不明を愧づることが屡〻ある。人を観るといふ事は実に難中の難で決して容易なものでは無い。就中、其人の安んずる所を察するのが最も困難である。困難ではあるが、人の真相を知らうとすれば何よりも最も注意して其人の安んずる所を察するのに力を致さねばならぬものである。其の安んずる所を知りさへすれば、九分九厘までは其人の全豹[全貌]を知り得られる事になる。
- デジタル版「実験論語処世談」(6) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第6(渋沢青淵記念財団竜門社, 1968.11)p.677-685
底本の記事タイトル:一九九 竜門雑誌 第三三〇号 大正四年一一月 : 実験論語処世談(六) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第330号(竜門社, 1915.11)
初出誌:『実業之世界』第12巻第16号(実業之世界社, 1915.08.15)