5. その分を超える勿れ
そのぶんをこえるなかれ
(67)-5
曾子曰。君子思不出其位。【憲問第十四】
(曾子曰く。君子は思ふこと其の位を出でず。)
本章は上章と聯絡して、その思議の分外に出てはならぬことを戒めたのである。思は経営謀画を云ふのであり、位は此処では必ずしも官位を指したのでなく、その居る所位に解してよい。(曾子曰く。君子は思ふこと其の位を出でず。)
凡そ人たるものはその事の公であり、私であるとに拘らず、自己の本分を守つて居ればよい。然るにその分外を超えた経営謀画をすれば人の事まで犯すことになり、之れが為に紛議の種を蒔くことが決して少くない。故に君子は自己を守ることを軽率にしてはならない。
処が今日の状態を見ると、皆この章句と反対して居るやうな事実が頻々として行はれて居る。然るに之れを以て自ら戒むべきものとしないで、却て之れを以て手腕のある人物の如く信ずる。紛議の種に遂に尽きる期なきに至るのも亦止むを得ないこととせねばならぬ。
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- 分, 超える, 勿れ
- 論語章句
- 【憲問第十四】 曾子曰、君子思不出其位。
- デジタル版「実験論語処世談」(67) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.597-609
底本の記事タイトル:三六九 竜門雑誌 第四三二号 大正一三年九月 : 実験論語処世談(第六十五《(七)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第432号(竜門社, 1924.09)
初出誌:『実業之世界』第21巻第4-7号(実業之世界社, 1924.04,05,06,07)