12. 徳を養ふことを忘るべからず
とくをやしなうことをわするべからず
(67)-12
子曰。驥不称其力。称其徳也。【憲問第十四】
(子曰く。驥は其の力を称せず、其の徳を称する也。)
本章は、驥に譬へて、君子は力を貴ばずして徳を貴ぶことを言うたのである。(子曰く。驥は其の力を称せず、其の徳を称する也。)
驥は名馬のことで、孫陽(伯楽)の相する所である。昔驥北の地が名馬を産したので、驥と云ふやうになつたものと思ふ。丁度我が国の南部から名馬を出し、南部馬と言へば名馬の総称となつたのと同様である。
名馬として尊ばれるのは、飛んだり跳ねたりする力の強い事ではなくして、習熟し控御し易い点にある。人の功を立て業を成すのは、才の力によるものであるが、君子の貴ぶ所はその才のみではなくして徳にある。才を無用としないけれども、徳のない方は遂にその用を誤る
に至るものである。そこで馬を例に引いて、力を称せずして徳を称すと云うたのである。
今日の政治界にも実業界にも、手腕、才能があつて徳のないものが多く、遂にその用を誤り、国家社会に害毒を流すやうなことになる。故に人は手腕、才能のみ重んぜず、徳を養ふことを忘れてはならぬ。
- キーワード
- 徳, 養ふ, 忘る
- 論語章句
- 【憲問第十四】 子曰、驥不称其力。称其徳也。
- デジタル版「実験論語処世談」(67) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.597-609
底本の記事タイトル:三六九 竜門雑誌 第四三二号 大正一三年九月 : 実験論語処世談(第六十五《(七)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第432号(竜門社, 1924.09)
初出誌:『実業之世界』第21巻第4-7号(実業之世界社, 1924.04,05,06,07)