デジタル版「実験論語処世談」(67) / 渋沢栄一

8. 長短を較量した子貢

ちょうたんをこうりょうしたしこう

(67)-8

子貢方人。子曰。賜也賢乎哉。夫我則不暇。【憲問第十四】
(子貢人を方《くら》ぶ。子曰く。賜や賢なるか。夫れ我は則ち暇あらず。)
 本章は孔子が、子貢の人を批評するを誡めたのである。
 方は比ぶと同じ。夫の字は上につけて賢乎我夫と読む。
 子貢は能く人物を批評して、其の長短を較量することを好んだ。故に孔子は、賜は我よりも賢れて居る。我は自ら修むるに急であつて批評するの暇がないと。之は子貢を褒めるやうであるが、実は之を戒むものである。
 子貢は智慧のある人で、富んでも居つたやうである。孔子も曾て子貢を評して「命を受けて貨殖し、慮れば屡〻当る」とも言はれた程である。余程世事にも通じた人で、貨殖の道にも長けて居つて、孔子もこの子貢の世話になつたことも少くないやうである。

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デジタル版「実験論語処世談」(67) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.597-609
底本の記事タイトル:三六九 竜門雑誌 第四三二号 大正一三年九月 : 実験論語処世談(第六十五《(七)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第432号(竜門社, 1924.09)
初出誌:『実業之世界』第21巻第4-7号(実業之世界社, 1924.04,05,06,07)