15. 私の人と事とに対する態度
わたしのひととこととにたいするたいど
(12)-15
私は、井上侯の如く凡らゆる事物人物に対して悲観的態度を取るものでは無い。さればとて又、大隈伯の如く総てが楽観的だといふわけでも無い。事に対しては井上侯の如く悲観的態度を取り、人に対しては大隈伯の如く楽観的態度を取るのを、私は私の本領として居るのである。事に対しては飽くまで悲観的態度を取つて、念の上にも念を押し、注意の上にも注意を加へ、万失敗を招かぬやうに用心して置かぬと、兎角事と申すものは敗れ易いものである。事に対して楽観の態度を取れば、人は什麽しても調子づいて来て注意が疎略になり、失敗せずに済む事にまでも失敗して、他人へも迷惑をかけ、自分も亦損害を招かねばならぬやうになるものである。これが私の、事に対しては井上主義を把る所以である。
- デジタル版「実験論語処世談」(12) / 渋沢栄一
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底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.32-45
底本の記事タイトル:二〇九 竜門雑誌 第三三六号 大正五年五月 : 実験論語処世談(一二) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第336号(竜門社, 1916.05)
初出誌:『実業之世界』第13巻第2-5号(実業之世界社, 1916.01.15,02.01,02.15,03.01)