デジタル版「実験論語処世談」(66) / 渋沢栄一

19. 正にして不正なるなかれ

せいにしてふせいなるなかれ

(66)-19

子曰。晋文公譎而不正。斉桓公正而不譎。【憲問第十四】
(子曰く。晋の文公は譎りて正しからず。斉の桓公は正しくして譎らず。)
 本章は晋の文公と斉の桓公と比較し、その正、不正を論じたものである。
 孔子は斉の桓公と晋の文公の二人の軍の用ゐ方を評したもので、晋文公は譎詐であるから正しくないが、斉の桓公は正しくして譎詐ではないと言はれたのであつて深い意味はないが、之れを左伝について見るに、文公始め曹衛を伐つて楚師を救ひ、後曹衛を復して二国を離反せしめたなどは譎詐な行動と云ふことが出来る。斉の桓公は楚を伐ち責むるに貢をしないこと、昭王の帰らないことの二事を以てしたのは正にして譎でない証だとすることが出来る。我が戦国時代に於ては武田信玄は晋の文公の如く織田信長は斉の桓公の如きものであらうか。

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デジタル版「実験論語処世談」(66) / 渋沢栄一
底本:『渋沢栄一伝記資料』別巻第7(渋沢青淵記念財団竜門社, 1969.05)p.575-592
底本の記事タイトル:三六六 竜門雑誌 第四三一号 大正一三年八月 : 実験論語処世談(第六十四《(六)》回) / 青淵先生
底本の親本:『竜門雑誌』第431号(竜門社, 1924.08)
初出誌:『実業之世界』第20巻第9,10号,第21巻第1-3号(実業之世界社, 1923.09,11,1924.01,02,03)